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※過去の人気記事の再編集&再掲です

これは僕の人生に大きな影響を与えた授業の話。

専門学生の頃、先生の提案で『お金持ちになるゲーム』というのをやったことがある。

チームごとに『お金』を製造し、制限時間内に最も多くお金を稼いだチームの勝ち…というシンプルなゲームだった。
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ルール説明①

・紙に『1000円』と書いて10cm×5cmに切り取った物を1000円と見なす。

・紙に『500円』と書いて直径3cmの円形に切り抜いたものを500円と見なす。

・規定より5mm以上小さかったり大きかったりするお金は無効。

・1時間後に最も多くのお金を保持していたチームの勝利。
ルール説明②

・それぞれのチームには紙を無制限で支給する。

・ハサミ、鉛筆、定規、コンパスなどの道具はランダムで1チーム2つづつ支給する。

・各チーム1回づつ先生から『情報』を聞くことができる。

・製造したお金は自由に使用しても構わない。

・ルールに無いことは何をやってもOK。
クラスメイトは4人づつのチームに分けられ、全10チームでゲームを開始した。
僕のチームには紙と鉛筆5本が配られた。
鉛筆だけでは正確な長さが測れないし、ハサミが無いと真っ直ぐ切り抜けないのでどうしたものか…と考えているとAチームから声がかかった。

『鉛筆2本とハサミを交換しない?』
僕はハッとした。

なるほど、このゲームはきっと『周りと協力することの大切さ』とかそんなものを学ぶための授業なのか。
僕は快く鉛筆とハサミを交換し、ついでに他のチームに行って定規もゲットしてきた。これでようやく紙幣づくりに没頭できる。
チームメイトの1人がひたすら線と文字を書き入れ、僕がひたすらハサミで切っていく。
しかしハサミと定規は1個づつしか無いし、鉛筆も交換したせいで1本しか残っていなかったので、チームメイトの残り2人は手持ち無沙汰だった。
しばらくするとBチームから、『1分につき5000円あげるから、ヒマそうな2人をウチで働かせてよ』という提案があった。 またしてもハッとする僕。そう、このゲームに勝つために必要なのは『どれだけ速く紙幣を生産するか』ではなく『効率的に紙幣を生産するためのアイディア』だったのだ。
実際、ヒマそうにしているよりはマシということで2人にはBチームへ『出稼ぎ』に行ってもらった。
残された僕らはたまたま手先が器用だったため、他チームに『職人芸』と評されるほどのスピードで紙幣を発行し続けた。

『出稼ぎ』と『職人芸』の二刀流こそが我がチームの武器になっていた。
30分ほど経って『そろそろ情報を解禁します。代表は一人づつ前に来てください』と号令があった。

与えられる情報がチームごとに異なるのか、先生は各チームの代表者にこっそり耳打ちをしていく。

僕の番になると先生は『生ハムにクリームチーズ巻くと美味い』というクッソどうでもいい情報をくれた。
せっかくの情報がハズレだったことに落胆しつつ、席に戻って紙幣を作っているとCチームの代表者がやってきた。

彼は『さっきの情報、こっちは当たりだったから10000円で教えてあげるよ』と言う。

まぁそれくらいだったらいいか…と思って1000円を10枚渡すと、かなり衝撃的な情報が飛び込んできた。
Cチームの代表者は先生から

『後半10分で革命が起こり、1000円よりも500円の価値のほうが高くなる』

と聞いたらしいのだ。

周りのチームを見ると確かに、慌てて500円を作っている生徒が何人もいた。
なぜ『500円』なんて無駄な設定があるのかと思っていたら、こういうことだったのか…と納得した。
しかし疑問が残る。

どうしてCチームは、価値が暴落するとわかっている1000円札と引換えに情報をくれたのだろう。

聞いてみると、彼は『価値が高いうちに1000円を集めて、他のチームから労働力を雇っておきたい』と言った。
こうして僕のチームは大慌てで500円の大量生産体制に入った。

作りかけの1000円紙幣は全て放棄して、全身全霊で500円玉を作り続ける。

残り25分…20分…15分…10分…となったあたりで教室に不穏な空気が漂い始めた。

そう、そろそろ革命が起こる時間なのだ。
ところが先生から『革命が起こりました!』というアナウンスは無く、そのまま制限時間の1時間が経過した。
少しザワつく教室内。
僕も『あれ?革命が起こったことは結果発表のときに言うのかな?』と不思議に思っていた。
そして先生の口から、衝撃の結果発表が始まる。
『じゃあ10チーム中、最下位のチームから発表するぞ』 この時点では全チームが、さすがにウチは最下位じゃないだろ…という余裕の表情をしていた。
『最下位は、Dチーム・Eチーム・Fチームの3組。合計所持金額は0円だ』

教室中が大きくどよめいた。

この3チームが最下位だったことはさておき、あれだけ時間をかけて『合計0円』とはどういうことなのか。
なにより、Dチーム・Eチーム・Fチームのメンバーが一番驚いた顔をしていたことを覚えている。
先生は細かい説明をすることもなく、次の発表に移った。
『Gチームが12万1500円で7位…Hチームが14万6500円で6位…Iチームは14万8000円で5位…』
細かい金額は覚えていないが、確かこんな感じだった。
このあたりは所持金に大差なく、僕が所属していたIチームも5位という中途半端な結果に終わっていた。
『Aチームが30万4000円で4位…Bチームが32万円で3位…Jチームが39万2500円で2位…』

4位あたりからは一気に所持金が上がっていた。

僕はどのチームよりもハイスピードでお金を製造していたはずなのに、どうしてこんな大差がついたのか理解できなかった。
『そして1位がCチームだな。合計所持金額は150万円』

1位の発表の瞬間、教室からその日一番のどよめきが上がった。

150万円。
いくらなんでも規格外すぎる。

他の全チームの合計金額を足したとしても、Cチームの金額には及ばなかった。
順位の発表が終わり、ようやく先生がゲームのカラクリを説明してくれた。

『まず5位~7位までのチームの説明をしようか。このあたりはひたすら真面目に頑張ったチームだな。どうすれば速くお金を製造できるかだけを考えて、努力だけでお金持ちになろうとした普通のチームだ』
『そして2位~4位までのチームはなかなか優秀。お金を出して労働力を雇ったり、情報を売買したり、他チームを子会社化したり…要するにルールの抜け穴を探してアイディアで稼いだチームだ。盲目的に従うだけでなく、ルールを最大限に利用する人間は強いな』
『そして1位のCチーム。特に代表者のC、お前はもう…なんていうかヤバイ。 新しいクラスでは毎年このゲームやってるんだけど、Cほどこのゲームを完璧にこなせる奴は数年に1人いるかどうかってレベルだ』
先生とCの証言によれば、ゲーム中は以下のような出来事が起こっていたらしい。
Cは最初、他のチームと同じように紙幣を発行していたらしい。
しかし『このままだと勝てない』といち早く気づき、対策を打つことにした。
Cは他のチームから1000円で買い取った道具を2000円で売り払ったり、1分1000円で雇った人を他のチームに1分3000円で貸出したりし始めた。
どのチームよりも速く、ルールの抜け穴を利用して効率的に稼ぎ始めたのだ。
さらにCは、Dチーム・Eチーム・Fチームを上手く言いくるめ、彼らが製造した紙幣をすべてCチームに上納する仕組みまで作った。
どう言いくるめたのかは忘れてしまったが、3チームは最下位になった瞬間に本気で驚いていたから『Cに従えば最終的に儲かる』と思い込んでいたことは間違いない。
そして極めつけは、Cが『革命』の話をでっち上げたことだった。

実は先生は全チームに『生ハムにクリームチーズ巻くと美味い』というクソ情報しか与えていなかった。

しかしCはさも重要な情報を聞いたフリをして他チームに近づき、嘘の情報と引き換えに多額の紙幣を奪っていったのだった。
しかもCの情報を信じてしまったチームは、起こるはずもない『革命』を信じて500円を作り続ける。
コンパスを使うぶん1000円よりも手間がかかる上、価値の少ない500円を延々と作らせることでライバルを大幅にペースダウンさせたのだ。
Cの情報のせいで、今まで誰も使っていなかったコンパスの価値まで跳ね上がっていた。

恐るべきことにこの状況までもCの手のひらの上で、Cはあらかじめ全チームからコンパスを買い取って大量に保持していた。

そして嘘の情報を信じてしまった各チームが、Cから高額でコンパスを買い戻していったのだ。
こうしてCチームは、他チームから効率的に紙幣を吸収することで大富豪に成り上がっていったのだった。

もちろんカラクリを聞いたクラスメイトたちからは不満が噴出する。
『詐欺だ!』とマジギレしている奴までいた。
『ぶっちゃけ先生もCが怖い』と笑いつつ、先生はみんなをなだめる。

『でも先生は最初に、ルールに無いことなら何をやってもOKって言っただろ?まぁ本物のお金でやったら犯罪だけど、Cはあくまでルールに則って行動していた』
『Cが2位以下のチームと違ったのは、ルールに従うわけでもなく、ルールの穴を探すだけでもなく、ルールを"作る"側に立っていたことだ。』

『ルールってのは作ったやつが一番強い。これは社会に出てからも同じことなんだよ』
『何も考えず美味い話に飛びつくと騙されるし、真面目にやっても上手くいくとは限らない』

『ルールを上手く利用する奴は得をするけど、Cみたいにルールを作る側の人間に勝つのは難しい』

『今みんながやったのは、社会の縮図だよ』
『どれだけ悪いことをしているように見えても、ルールに違反していなければ取り締まることもできないってことだな』

『今みんながやったみたいに、それは悪いことだ!って声を上げることはできるし、そうすればいつかルールが変わるかもしれないけど』
『だからみんなには社会に出ても、いろんなものを疑ってみてほしい』

『このルールは誰が得をするためにあるのか、この仕組みを上手く利用できないか、自分がやっていることは本当に正しいのか…とか』

『要するに、簡単に騙されるなってことだ』
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