torasanjoshiryoku
『男はつらいよ』 という作品が嫌い

子供の頃から見ていたので馴染み深い作品なのだが、どうにもこの作中に登場する車寅次郎が大嫌いだ。
何が嫌いかというと、自分は好き放題しておいて他人のやっていることには口をはさみ、
逆に自分が指摘されると逆ギレするという有様だ。

(中略)

これが『男はつらいよ』の定番であり、人情話として人気があった。
ラストでは人情あふれる車寅次郎の魅力のように終わっているので、そう見えるが実際はそうでもなく
性格に難がありすぎて結婚もできない独身の自称テキ屋という男が、やりたい放題やっているだけの作品だったりする。
なぜこれが人気があるのかが、大人になっても未だに理解が出来ない。

https://anond.hatelabo.jp/20190126210030
そもそも寅さん、劇中でも本気で嫌われてたりするけどな…
小学校の同窓会のエピソードはマジで悲惨だった。

でも一部の人に嫌われるくらい自由そうなとこなんだよな羨ましいのは。
ヒースジョーカーと似たようなトリックスターなんだよね。
大学のとき、「ニューシネマパラダイス」をある一つの街のパラダイムを巡る物語として読み解くという授業があったんだけど、
あの街の中にいつも喚いてて周囲の人にウザがられてるいわゆる「基地」の「外」の人が出てくる。
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映画館を中心に結びついたコミュニティが築かれていた主人公の子供時代において、
その人はウザがられながらも
「いつも喚いていてウザがられる人」という役割
をも与えられてるように見えた。
映画の後半、主人公が大人になって久々に故郷の街に戻ると映画館は無くなったあとの、中心を失い結びついていないコミュニティとしての街が映される。

そこにあの基地の外の人は相変わらずうろつき喚いているのだが
周囲の人から完全に無視されていて、かつての役割を剥奪されたようであった。
彼はコミュニティにおけるアウトサイダーと思いきや
コミュニティがあることで規定されていたキャラクターでもあったのだ。

だがコミュニティが無くなった今ではもう何の意味も無い、ただ喚く人と化していた。

そんな彼の姿の悲哀が街のパラダイムの変化を浮き彫りにしていてとても面白かったのだけど、
「男はつらいよ」もこの視点から見ると
何故愛されたのか、何故今は成立しないのか
がわかりやすいのかなと思います。
多分寅さんは

寅さんというキャラクターとして特別扱いされるか、
現代からは意味消失してしまった者として描かれるのか。


おそらく今度の新作は前者だと思うのだけど、
あのシリーズをずっと見ていくと後者を匂わせるポイントが結構多くてハラハラするんだよね。
寅さんは自由人だし
自由人はカタギの人からは疎まれるし、
それも十分自覚してるからこそ誰ともくっつかないし、
自分を蔑ろにする周囲に怒って更に疎まれる、
嫌われる者たろうとするのが実に哀しくて、
その構図をさくらはわかってるし、
おいちゃんもおばちゃんも寅さんが去ってから
「なんでいつも仲良く出来ないんだろうね」
ってなるのが笑えるし哀しくてね、それが好きだったな。
第42作のラスト

帰ってきた満男を囲み電話の向こうで寅さんをよそに盛り上がる柴又の面々

小銭が切れて小言を言いながら旅先の公衆電話を後にする寅さんという構図が
それを象徴しているようで見るたびに泣いてしまうんだよな
そうそう

寅さんは時代の流れと共に自分の居場所が消えていくのをわかってか満男のメンターというポジションに鞍替えしていってるようにも思えるんだよな。

そしてシリーズも連続性の強いストーリーに変化していく。
でもそんな自由すぎていつかどこにもいられなくなってしまうような寅さんだからこそ、阪神震災の被災地にひょっこり現れるのが許されたようにも思える。

だから最終作のラストシーンは、シリーズとしては志半ばだったかもしれないけど、ちゃんと完結してるようにも見えるんだよな…
更にハイビスカスの花特別編の駅のホームで満男が寅さんを幻視するシーン、ホームにはコギャルがいたのが象徴的で…

時代が完全に移り変わってしまうが
そこに幻としての寅さんが現れるという満男の無意識的な願望でもあり、
逆に言えば幻としてしか現れようがない今(当時)における寅次郎でもある。
「男はつらいよ」最終作「寅次郎紅の花」
マドンナとして最多出演のリリーが遂に寅さんの生き方を完全否定するのも見事なんだよな。

本当にあの映画はまだ途中だったのかと疑いたくなる。
堂々とした完結編にちゃんとなっててびっくりしたな。
就職して、結婚して、幸せな家庭を築くのが正しい大人のあり方という価値観が見直されている今だからこそ言えるが、
定職に就かずに商売をしながら旅をする寅さんは模範に囚われない生き方を目指す我々日本人のパイオニアだったのかもしれん…好意的に捉えるとな
でもそうすると寅さんはアウトサイダーでもトリックスターでも無くなってしまうし、とらやに帰れなくなってしまうんだよね…
「男はつらいよ」
一言で言うと
「俺みたいになっちゃダメだぞ」だな。
引用元
男はつらいよ HDリマスター版(第1作)
(2014-12-17)
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